
レオンが見たグラム
レオンは手記を読んだのか
トレサ編に登場するレオンの考察です。
レオンの転換期
トレサ編に登場するレオンは、元大海賊でありながら現在は商船の船長を務めている。
グラムがレオンの船に乗ったのは10年前。
つまり当時のレオンは23歳前後で、商人として歩み始めたばかりだったのではないだろうか。
22歳のミックとマックが幼い頃に憧れた海賊であり、その後、時間をかけて船を修復していることを考えると、グラムを乗せた頃のレオンは商船の船長になって日が浅かった可能性が高い。
- 貧民街で生まれる
- 大海賊と呼ばれるようになる(ミックとマックが憧れる)
- バルタザールとの勝負に負ける(10数年前)
- バルタザールの船を商船として修復
- 商船の船長となる
- グラムを船に乗せる(10年前)
- トレサと出会う(現在)
海賊時代のレオンは「強い者が弱い者から奪う、それが世の常識だ」という価値観を持っていた。
その価値観を大きく変える出来事となったのが、旧知の仲であるバルタザールとの最後の勝負だった。
バルタザールが残したもの
レオンは幼い頃からバルタザールと共に競い合ってきた。
この関係はオルベリク編のオルベリクとエアハルトを連想させる。競い合う相手がいたからこそ、切磋琢磨して成り上がることができたのだろう。
バルタザールはガキの頃から 一緒に成り上がった海賊だった
荒鷲のバルタザール
海蛇のレオン
かつて2つの海賊団は 大海に名を轟かせていた―
レオンにとっては海賊としての日々がずっと続くものと思っていたはずだ。
奪えるほどの強い立場としての誇りもある。
だから、バルタザールの「海賊になんかなりたくなかった」というセリフに反発したのだろう。
「世界中のお宝を売買して、人と人とを繋ぐ」というバルタザールの夢を、レオンは笑い飛ばす。
少なくとも、この場面でレオン自身が将来の夢を語ることはない。
二人は同じ海賊でありながら、目指しているものは違っていたように見える。
二人の価値観の差を浮き彫りにするのは、「夢」だけではない。
「宝物」についても、レオンは「あり過ぎて答えられん」で、バルタザールは「見つからなかった」であるる。
本当の宝物ってのは、たった1つさ。そのためなら命を賭けられる。
これはバルタザールがレオンに提示した「宝物」の定義だ。
その言葉で、レオンは「本当の宝物」が自分にはないことに気づく。
しかし、この時のバルタザールは「本当の宝物」を見つけていたのだろう。
いくら奪っても 本当の宝物は見つからなかった。
この「見つからなかった」と過去形になっているということは、今は「本当の宝物」を見つけたように聞こえる。
だから、命を賭けられると断言できたのではないだろうか。
子どもの頃から金品を略奪して、多くのお宝に触れてきている。
けれど、奪って得たものの中に「本当の宝物」はない。
では、何が「本当の宝物」だったのか――。
バルタザールは最後の競争で命を賭けている。
何度も書き直した“世界一の相棒へ”という言葉。
レオンに宛てた手紙に書かれた“お前の宝物は見つかったか?”
私は、バルタザールが見つけた「たった一つの宝物」は、レオンだったのではないかと思っている。
「俺の宝物はこれだ!」と胸を張って言えるような人生をレオンに送って欲しかったのではないだろうか。
不満のない現状をあえてレオンが変えることはないのは、幼い頃から共に育ったバルタザールは百も承知だったはずだ。
しかし、同時に勝負には真摯であることも知っている。賭けの内容を“本当の宝物”にすることで、レオンは嫌でも本当の宝とは何かに向き合わざるを得ない。そう考えたのではないか。
だからこそ、レオンはそれまで疑問に思ったことすらなかったはずの、絶対的な価値観である、
「強い者が弱い者から奪う、それが世の常識だ」が崩れ、「たった1つの本当の宝物」とは何かを問う姿勢に変わったように思えた。
バルタザールの宝物の正体はあくまで憶測である。
重要なのは、レオンがバルタザールからの問いを受けて、商船の船長として歩み始めたということ。
商船の船長を選んだのは、自分でやりたいことがない中、バルタザールの夢を手掛かりにしたのだろう。
しかし、商人になったからといって、バルタザールの問いが消えたわけではない。
海賊時代に数え切れないほどのお宝を見てきたレオンには、商品の価値を見抜く力は既に備わっていた。
だが、本当の宝物だけは、まだ見つかっていなかった。
バルタザールの問いに悩むレオンの前に、一人の青年が船へ乗せてほしいと現れる。
彼の名は、グラム・クロスフォード。
その青年は、「もっとも価値のある品物」を持っていた。
レオンの目利き
レオンは「粋」という言葉を用いる。
まるで、「粋だと感じた相手は信頼する」とでもいうように使われているように感じる。
でも…許せないの。大切な商人を奪うなんて、見過ごせないわ。
あたしにも、商人としての意地があります!
ううん、これがいいんです。どうしてだろう…。
この手記に一番惹かれるの。私に何か、呼びかけているような…。
これはトレサのセリフであり、そのセリフの後にレオンは「粋」だと発言している。
この二つに共通しているのは、自分の価値観を優先して行動していることではないだろうか。
危険だからやめる。
高価だから選ぶ。
そうした一般的な判断基準ではなく、自分が何に価値を感じるかを軸に決断している。
レオンは、そういった損得を超えて筋を通す態度を「粋」と呼んでいるように思えた。
では、同じように船に乗せたグラムのどこを、レオンは「粋」だと感じたのだろうか。
当時のレオンは23歳。「本当の宝物とは何か」という問いを抱えたまま、答えは出ていなかった時期。
レオンとグラムのやり取りは、フィニスの門にあるグラムの手記に記されている。
さて、船が港に1隻だけ停泊していた。立派な船だ。船長の名は、レオン·バストラル。
この海で名を馳せる海賊、と聞いたことがあるが……どういうわけか、商船の船長に鞍替えしたらしい。
一刻を争う私は、出航せんとする彼に乗船を懇願した。
「タダで乗せるわけにはいかねえな」
彼は私を試すように伺っている。まるで、信頼できる人間しか船には乗せない、と言うかのようだ。
ろくな所持金もなく、私は考えた。そして彼に、自らの手記を差し出した。
「これは私の持ち物で、もっとも価値のある品物だ。大陸中を旅した記録を記してある。
きっと何かの役に立つだろう。お代には足りないかもしれないが…」
もはや、手記に記すこともない。ただ私は、妻の元へと急ぐだけだった。
レオン船長は高笑いした後、快く私を招き入れた。
「そんなもんをお代に? なかなか面白いやつだ、気に入ったぜ」
「懇願した」という記載があるため、グラムは妻が危篤で時間がないこと、薬がもう少しで完成しそうなこと、そういったことを伝えたはずだ。
その話を聞いた上で、レオンは「タダで乗せるわけにはいかねえな」と答えている。
情に訴えられただけでは、動いていない。そして、そんな切羽詰まった状況のグラムを試している。
悩んだ末、グラムは「もっとも価値のある品物」として手記を差し出す。
レオンが手記を受け取ったという記載はどこにもない。
このやりとりだけで、レオンはグラムを快く招いて船に乗せている。
この時のグラムがとった行動を振り返るとこうなる。
- 誠心誠意懇願する
- 所持品の中で「もっとも価値のある品物」として手記を差し出す
- 記載されている内容は大陸中の旅の記録であることを教える
- お代としては足りないことを告げる
レオンから見るグラムは「もっとも価値のある品物だと手記を迷いなく差し出す男」である。
海賊時代のレオンなら、手記を価値のない物として一蹴したかもしれない。
けれど、商船の船長して駆け出しのレオンは自分の新しい価値観が定まっていない時期だった。
グラムは「考えた」と記載しているが、このやりとりには全く駆け引きがない。
手記の内容を誇大することもない。しかも、他には何もないと告白しているようなものだ。
だからこそ、レオンは、グラムの価値観を面白いと感じたのだろう。
自分の宝物を持つ人物が、それを守るために何を差し出すのか――。
そんな視点だったのかもしれない。
レオンが見ていたのは「その人が何に価値を見出して生きているのか」。
さて、ここで気になるのは、レオンはグラムの手記を読んだかどうか、である。
トレサがグラムの手記を選んだ時のレオンのセリフから考えてみる。
こいつは…。はっはっはっは! 残念だが、こりゃ二束三文の品だ。
…昔、船に乗せた男が置いていった手記だ。やれやれ、捨てられもしねえで、積荷に紛れてたか。
嬢ちゃん、悪いこた言わねえ。他のにしておきな。
受け取っていないなら、「置いていった」ではなく、「忘れていった」になるはずだ。
そして、読んでないなら「二束三文の品」と断言することはできない。
そうでなくても、自分が面白いと感じた人物が書いた手記をレオンが読まない、という方が説明は難しいだろう。
では、手記を読んだレオンはどう感じたのだろうか。
私には、大切なものがある たったひとつの、大切な宝物だ
この旅は、その宝物のために…
手記を読めば、レオンがずっと考えていた「たった一つの宝物」を既に手にしていることが分かる。
しかも、当時のグラムはほぼ同じ年齢だ。
本当の宝物のために、何を考え、どう行動したか。その心の記録が記されている。
トレサは、グラムの希望を受け継いだ。
一方レオンは、「本当の宝物とは何か」という問いに対する、一つの答えの形をグラムの手記から見た可能性がある。
問い続けても手掛かりがない中、レオンはグラムの手記に、本当の宝物を手にした人物としてのお手本を見た。おそらく初めての手掛かりだったはずだ。
――どんなものを“たった一つの宝物”と捉え、そのために何ができるのか。
実例を知ったことで、後にレオンは自らの答えを見つけることができた。
宝物について考え続けた末、レオンは人を見る自分なりの尺度を得たのだろう。
結果的に、商品だけでなく人をも見定める審美眼を身につけることになる。
そして、レオンが見つけた答えこそが、バルタザールが望んだレオンの生き方だったのではないだろうか。
バルタザールが教えてくれた 俺の生きる道だ

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